12月13日(金)に秋田市内にて「オープンデータセミナー秋田」を開催しました。
本セミナーは、秋田県「地域間連携事業」として開催したもので、IT関連分野で地域を超えた連携のもと、新たな取り組みに向かうための場づくりを拡げようという主旨で、オープンデータをテーマに取り上げました。
オープンデータに関する基本的な理解や活用事例、さらにはオープンデータに関する取り組みに携わる人材像や場のつくり方へ考えを深めることを目指して、以下のプログラムで開催しました。
【第1部】オープンデータ利活用とその可能性
講演テーマ「オープンデータ概論 〜農業とビジネス活用を視野に」
講師:林雅之氏(国際大学GLOCOM 客員研究員[株式会社NTTコミュニケーションズ勤務])
講演テーマ「農業×ITでのデータ活用 〜アグリノートの事例」
講師:中川幸哉氏(ウォーターセル株式会社 チーフ・モバイル・エンジニア)
【第2部】オープンデータ時代に求められる人材像と地域間連携
講演テーマ「新サービス創出に求められるIT人材像」
講師:須藤順(株式会社CCL 取締役)
講演テーマ「オープンデータ利活用に向けて 〜岐阜県の取組事例」
講師:森達哉氏(岐阜県 商工労働部 情報産業課 情報産業係 主査)
【第3部】オープンデータ時代に求められる人材像と地域間連携
パネラー:林雅之氏、中川幸哉氏、須藤順氏、森達哉氏
コーディネーター:原 亮(Fandroid EAST JAPAN理事長)
それぞれのプログラムでは、次のような議論がありました。
【第1部】オープンデータ利活用とその可能性
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講演「オープンデータ概論 〜農業やビジネス活用を視野に〜」(林雅之氏)
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オープンデータの基礎的な解説に次いで、国内外の事例を紹介いただきした。
世界の主要都市では、地方政府が独自ドメインでオープンデータのポータルサイトを立ち上げていて、そこから事例が生まれています。一方で、日本では、2013年6月に政府から提示された「世界最先端IT国家創造」宣言(案)にて、全体戦略の先頭でオープンデータの推進が掲げられ、データカタログサイトの開設が予定されているほか、総務省、経産省などによるオープンデータ利活用の環境整備が進められています。
自治体にとってのオープンデータ政策については、
・行政の透明性・信頼性の向上、行政効率化
・市民の行政参加、利便性向上
・地域コミュニティ、地域経済の活性化
がテーマになるだろうとのご提示をいただきました。
基礎自治体が保有するデータへの期待が多い一方、国内全体の傾向として、都道府県よりも市町村の取り組み状況が遅れているとのことです。利用イメージを持って、取り組みが進むことが今後望まれます。
(参照)総務省「地域におけるICT利活用の現状等に関する調査研究」(平成25年)
また、先進自治体として、福井県鯖江市、横浜市、千葉市などの状況を紹介いただきました。
(参照)福井県鯖江市「データシティ鯖江」
また、農業×ITの取り組みとして、ASPIC「農産物情報の提供・二次利活用ガイド」のほか、農業分野でのデータの活用事例として「米の情報提供システム」「福島県の農林水産物に関する情報データベース」「みつばちの里(放射線量のリアルタイムデータ収集)」「明治大学(黒川農場)」「早和果樹園(ブランド再生と地域活性化)」「水稲栽培管理警戒情報」などの例をご紹介いただきました。総務省からも「情報流通連携基盤事業」にて生鮮農産物情報に関する実証がはじまっています。
海外では、気象データと過去の収集量にもとづき、地域や作物の被害発生率を保険情報と連携させた「TotalWeather Insurance」などのサービスが発達しています。
オープンデータの市場規模は、EUでは1.4兆円との試算があります。日本でもオープンデータ関連のビジネスが発展するために、自治体のほか、データ仲介業者、システムやアプリ等の開発事業者、ベンチャーファンド様々な事業者が取り組みを進めていくことが求められます。そうした環境整備にあたり海外では、オープンデータ化を支援する事業者やサービスも登場しています。
まとめとして、地域におけるオープンデータ推進にあたって
・公開可能なデータ、ニーズの高いデータから公開
・市長のリーダーシップ×推進部局×活用する市民・起業
・適用領域のデータ公開の拡大
などを論点にあげていただきました。
林さんの今回の発表資料は、以下リンク先で公開されています。
(参照)オープンデータ概論 〜農業やビジネス活用を視野に〜
今回の様子をブログ記事にしていただきました。
(参照)AltanativeBLOG『ビジネス2.0』の視点 「オープンデータセミナー 秋田」に参加して
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講演「農業×ITでのデータ活用 〜アグリノートの事例」(中川幸哉氏)
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ウォーターセル株式会社は、新潟で農業×ITを専門に取り組んでいるベンチャー企業です。中川さんには、同社で展開されているアグリノートのサービスを事例として紹介いただきました。
(参照)アグリノート
アグリノートは、GoogleやYahoo!の地図を使ってWebやAndoridで動く農作業記録システム。にいがた産業創造機構の紹介で、新発田市の農場からの相談が、未踏スーパークリエーターの長井さんに舞い込んだのが開発のきっかけでした。
日本では、農業人口が減退を続ける中、減った農家に農地が集約され、結果として個人農家の大規模化が進んでいます。
かつて他人の管理下だった土地・圃場がバラバラに集約されており、効率的な作業記録が求められることが背景となり、アグリノートが生まれ、農家向けのプロジェクト管理ツールとして発展しました。
農業とデータの観点については、農作業×データ、経営×データ、流通×データの3つの切り口を挙げていただきました。
[農作業×データ]
農家さんの記録ツールは紙です。データ活用以前に、データ化が進んでいない。データがあれば、過去データをもとにした作業の反省、改善や他者への伝達などが可能になります。その結果、アグリノートでは、一緒にデータを見ながら、農作業の管理を通じて作業者同士の認識をそろえていくグループウェアのような使い方も生まれています。
他産業の感性で農業を見つめてこそ、見えることがあるというのが、中川さんから示された観点です。
また、農業に使えるオープンデータとして、
・「農薬登録情報提供システム」農林水産省非安全技術センター(FAMIC)提供
・各種の気象データ
を挙げていただきました。
[経営×データ]
営農戦略を練る際に参考になる情報があるとよさそうとのこと。農家が経営感覚をもつためのデータ提供や、JGAP、有機JASを活用した作物のブランド力をあげるための品質基準認定など。
[流通×データ]
流通業者に資するものとして、生育状況の昨年比や農薬・肥料の情報を含んだ栽培記録などが考えられるとのことです。
それぞれのアプローチで、さまざまなIT事業者が農業×ITの分野に参入しています。
参考文献として以下を挙げていただきました。
(参照)儲かる農業―「ど素人集団」の農業革命 (竹書房新書)
最後に農業×ITの注意点として、
・分析に使えるデータが溜まるまで時間がかかる
・農家さんは面倒なシステムから離れて行く
いった課題から、機能の多寡ではなく「長く使える」システムであることが重要だというご指摘をいただきました。長い目で見ることが大切ということを強調されていました。
【第2部】オープンデータ時代に求められる人材像と地域間連携
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講演「新サービス創出に求められるIT人材像」(須藤順)
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弊社須藤(すとう)よりお話をさせていただきました。
メディカルソーシャルワーカー、NPO中間支援組織でのコミュニティビジネスや地域での人材育成、中小機構での企業支援など、多様な経験、さらには経済経営学博士としての考え方をベースに、IT人材について新たなイメージを提示しました。
最初の論点は、人材を考える際、その背景の変化を理解することが大事になるという点。
社会の姿が早いスピードで変化する現在、その変化の先にある社会像から人材のあり方を考える必要があります。
変化の一つとして起こるのが日本社会での人口減少。秋田県は日本一の人口減少県となります。生産や消費に大きな影響があるほか、海外から見た際、GDP減少のみならず日本市場への魅力も急激に衰えて行きます。
IT業界においては、多くの社会課題が顕在化する中で、受け身的で労働集約的なITサービス産業に何ができるのかが、問題提起として挙げられています。IT産業は、効率性や付加価値誘発の高い産業分野としてのポテンシャルを持っていて、実際に、GDP成長に対するICT産業の寄与率は過去5年間でおよそ38%と、高い数字を出しています。
経産省では、フロンティア人材といったイメージが出されているほか、データサイエンティストやT型、π型、+型、∇型といった人材像も指摘されています。
「コストとコントロール」「分析力」を武器に、既存産業の効率化を求めるにあたって技術力に優れたIT人材が重要だったのが、かつてのイメージ。今後は、イノベーションを意図的に起こすことをファシリテートできる人材像が求められます。
技術イノベーションが求められた従来から、自ら問題点を発見して社会価値イノベーションへ、社会の要求が変化しているのが現在です。ここで、イノベーションとは、優れた1人の天才が起こすのではなく、また技術ベースから生まれるものではないという点が指摘できます。
多様な価値を持つ人の交わりから生まれる
目の前の人の課題を解決するために生まれる
バイアスを壊すことから生まれる
反して、イノベーションの阻害要因として、高度すぎる専門性、行き過ぎた効率化、内製へのこだわり、完成への信奉、失敗を認めない、判断できる人がいないといったことが挙げられます。
では、どうやってイノベーションを起こすのか。イノベーションは意図的に起こせるのか。
そのアプローチのひとつがデザイン思考です。
ここでのデザインは、デザインの思考プロセスを指していて、デザイン思考では、現状分析や仮説検証よりも、「どこに問題があるのか、なぜ問題なのか」を探求すべく、「観察してユーザーに共感する」「潜在的な問題を探る」といったアプローチを取ります。
そうした考え方を持った新たな人材像として「デザイン型人材」がうたわれています。
社会に適用するOSとアプリケーションが変わったことを自覚する時代に突入したと言わざるを得ません。
OSとは、マインドとスキル。言い換えれば、ヒューマンスキル×コンセプチュアルスキルです。アプリケーションは、IT関連能力、業務遂行能力。こちらはテクニカルスキルとして語られる部分です。
今後求められるのは、異分野をつないで翻訳でき、エコシステムを構築して、イノベーションを起すきっかけを作れる人物。しかし、地域で為すべきは、これらが何でも高度にできるスーパーマンではなく、そうした素養、発想に理解、共感しながら場づくりを試みる人を、身近に多数生み出していくことです。
まとめとして、
・ITをITの専門家だけで取り組み時代は終わった
・多様な異分野の専門性を持ったチームを作ることが重要
・社会価値を創り出せる人材がこれからは必要となる
・新サービスはあらゆる領域の境界線で生まれる
・ITはすべての産業の基盤=インフラとなった
などを挙げております。
須藤の発表資料は以下より公開しております。
(参照)新サービス創出に求められるIT人材像
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講演「オープンデータ利活用に向けて 〜岐阜県の取組事例」(森達哉氏)
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岐阜県から情報産業課の森さんにお越しをいただき、岐阜県の事例をご紹介いただきました。
岐阜県では、産業集積地ソフトピアジャパンと人材育成機関IAMAS(いずれも岐阜県大垣市)を一大拠点として、20年ほど前からIT産業の育成に注力しています。
近年は、GIFU・スマートフォンプロジェクトとして、アプリ開発人材や関連商品の開発、活用イベント等の開催支援などで、地域全体の底上げをはかった取り組みが注目を浴びました。県公式アプリのリリースや育成した人材の高い就業率などで高い成果を挙げ、現在も、人材育成、交流促進の取り組みが継続しています。
そんな岐阜県では、ITのツール化が加速している中、次の一手として、今後避けて通れないオープンデータの利活用に対して、ニーズ、課題解決の視点から利活用事例の創出を目指すことになりました。CCLで受託をしている「オープンデータを活用した新サービス創出・研究事業委託業務」を、現場での動きを交えて紹介いただきました。
オープンデータカフェでは、地元での地域づくりのキーパーソンをお招きして、彼らの考え方や活動の魅力、難しさなどをワークも交えて展開。オープンデータハッカソンでは、県内外でアイデアソン・ハッカソンを仕掛け、ノウハウと成果物を溜めつつあります。ハッカソンでは、プロトタイプ創出のみならず、異分野での交流や高度な技術を持つ人同士の交わりも生まれ、副産物の価値も高い場となりました。
各地での調査においては、県内市町村や事業者の訪問や、東北、首都圏でのヒアリング、鯖江市へのインターン派遣などを実施。ロールモデル構築においても、地域のコミィニティなどと連携して、アプリケーションのリリースが準備されています。人材育成においては、
最後に岐阜県が保有する情報のオープンデータ化について紹介があり、過去に積み上げたGISの豊富なデータがありながら、まだオープン化はされていないとのことです。岐阜県では、9月議会にて知事から、GISデータの活用も含めたオープンデータ推進に取り組む答弁があり、今後の推進が待たれています。
まずは動けるところからということで、岐阜県では情報産業課が、できる部分から公開を進めていくための推進役として活動を増やしていくとのことです。
また、地域間連携についても、オープンデータを進めるための課題、知見、ノウハウなどを、地域内だけで閉じることなく、共有を進め、解決の動きを加速させていくことで、お互いのブラッシュアップをはかりたいとのコメントをいただきました。
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【第3部】オープンデータ時代に求められる人材像と地域間連携
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コーディネーターからの問いかけに、登壇者のみなさんからお答えをいただく形で進行しました。
(1)うまくいっている地域・自治体の特徴は?
原:先進自治体の特徴をどう見るか。
林さん:「市長のリーダーシップ」「役所内での事務局の存在」「活動できる市民がいる」の3点。うまく行っているところは、役者がそろっている。
須藤:うまく行っているところでも、全庁の理解は進んでいない。一方で鯖江の牧田さん・福野さんのような「先を進む役人」と「フォローする市民」のよい関係がある。うまくいっているところの特徴は、担当直員が企業、地域との関係作りが非常にうまいという点。市民との恊働関係に経験がある。そうした人が担当していくのかスムーズにいく。
森さん:情報産業課は企業とのコミュニケーションの場が多いので、民間との関係はある程度できてくる。県の規模になると、情報企画部門は、システムの管理部門に徹しているので、外との接点が少ない。そこで市民側との距離感が出てしまうと難しい。知事からのトップダウンだけでは、役所の中には知事から現場までいくつかの階層があり、現場の担当レベルとの声が直に通らないこともある。
原:海外で進んでいるのはなぜか。
林さん:海外はポリシーを持って進めているほか、責任ある担当者が対外的にもきちんと動いている。ビジネスライクで仕組みや投資などを含めたエコシステムの構築が進んでいる。
(2)アグリノートに学ぶサービスづくりのプロセス
原:アグリノートは、ITの側から農家さんへのアプローチが難しかったのでは?
中川さん:目の前に困っている農家さんがいて、それをまず解決していく。次の農家さんも同様に、モニターしていくうちに、「これはいい」という話になってくる。この人たちとセンスが近い人、困っていることが近い人に対して、サービスを拡げていけるなという手応えがあった。
原:須藤さんが示したデザインシンキングの発想に照らすと、理にかなった作り方ではないか?
須藤:困っているものを解決してほしいという視点がある。オープンデータ活用においても、目の前の困りごとを解決した結果、使ったものがたまたまオープンデータだったという流れがよい。ひとつのサービスを作るときに、だれの何を解決するのかを整理する必要がある。そこを絞らずに、“みんなにいいもの”を作っても、すぐに代用が出てきてしまう。
原:「GIFUスマートフォンプロジェクト」でも県や事業者がアプリを多数リリースしていたが、そうしたプロセスはあったか。
森さん:個々のアプリでダウンロード数の伸びに差ができた。ユーザーの声に応えたアプリは伸びた一方、ユーザーではなく、関わっている人の希望が前面に出ると伸び悩む。極端に差が出てくる。しかし、そのプロセスの細かい分析まではできていない。
(3)新たな分野に手を伸ばせるのはなぜか
原:岐阜県はかなり早い時期から「iPhoneプロジェクト」などを立ち上げて成果を挙げた。時機を得て反応ができたのはなぜか。
森さん:最初にiPhoneアプリを見せられたときは、何も意味がわからなかった。しかし、首都圏企業も手が足りないという声を聞いていたので、ニーズがあることはわかっていて、やろうという話になった。開発者を育成する動きに、地元企業も、情報が早いところが反応してくれた。県で事業をつくり、地元企業8社で人材を育成するプロジェクトに発展。育成ノウハウを持たない企業も、ほかの育成能力をもつ企業と組んでノウハウをつかむなどの動きにつながった。
原:中川さんもAndroidへの着手が早かったが、手をつけたきっかけは?
中川さん:以前からスマートフォンが好きだった。大学の卒論テーマを決めかねていたときに、指導教員がAndroidの話を早く持ち込んできたのがきっかけで、やらないといけないという流れがあった。Android界隈は、勉強会を開くITコミュニティも早い段階からあり、Twitterなどでも情報交換が盛り上がっていた。スマートフォンアプリを作ることは、会津では特別なことではなかったが、新潟に帰ったら、できる人間がいないことがわかり、新卒の自分が引っ張る役割になった。
(4)オープンデータでのITコミュニティの役割とは
原:なぜITコミュニティに手を広げていった?
中川さん:東京でIT勉強会が盛り上がっていて、興味深い方向で技術を使おうとする人たちがいた。勉強会を通じて、技術を楽しむ人がいるのを知った。興味のあるところへ自分たちの技術を使って行く、伸ばしていく面白さがあった。
原:オープンデータでもCode for Japanなどのコミュニティが動いているが、ITコミュニティの存在をどうみるか
林さん:自分もクラウド利用促進機構など様々なコミュニティに入っている。コミュニティからビジネスにつながる動きが出てくるといい。
原:ソフトピアではITコミュニティの動きが少ないような印象があるが
森さん:県で促している側面もある。IT企業の集積が進んでいる割には、自発的な横のつながりが少ないので、もっと動きがあっていい。
(5)オープンデータでのハッカソンの位置づけ
原:オープンデータをテーマとしたハッカソンには難しさがあるのではないか
須藤:これまでのハッカソンは、制約条件のない中でやっていく楽しさを求めたものもあるかもしれないが、オープンデータの場合は、一定の制約条件がつく。アイデアソンに入る前のインプットを緻密にやらないといけないだろう。開発する技術の問題もある。データがどこにあるのか、そのデータをどう読み込めばいいのか、など、データに対する理解を深くできていないと、取り組むのは難しい。自由につくる魅力とサービスの最終形が見えづらいことのバランスをどう取るか。
林さん:LODチャレンジに参加してきたが、そこでもインプットの場があった。オープンデータでやるなら、インプットに時間をかけないといけない。オープンデータ系の集まりと、ビッグデータ系のコミュニティやデータサイエンティストの集まりでは、その辺のアプローチが分かれている。一緒にやってみるといいかもしれない。
(6)異分野にITを持ち込むことの難しさをどうするか
原:地域の人たちにとって、ITは難しくて怖い存在なのではないか。持ち込むのは大変なのでは?
中川さん:農家さんから「パソコンはわからないから!」という反応はあった。スマートフォンも難しいという反応が出るが、それでも、タブレットにはよい反応が示されることがある。農家さん向けに5インチ型のタブレットなどは受けるのではないだろうか。
須藤:農家の場合、過去に特定の業界が、役に立たないITサービスを広めていった傷がある。ITに対するイメージが昔のまま。地域にアプローチするには、自分たちの業界の言葉を持ち込むのではなく、課題を掘り起こすほうが大切。優秀な専門家は、専門用語を使わずに、日常の話や時事ネタで入り込む。デザイン思考の要素にもあるように、無知の状態で素直に相手の話を聞くのが大切。
林さん:自分はPTAなど地域の活動にも参加をしている。地域の中で、地産地消で出していく動きがあっていい。地域の中に人がいないという問題があるかもしれないが、うまくつながっていくことで、地域で活動できる人を見つけ出していけるといい。
(7)他地域の人が入り込む有用性
原:CCLでは、鯖江に社員をインターンとして送り込んだ。ITの分野では新鮮な取り組みだったと理解しているが、地域起こしの分野などではどうか。
須藤:いままで地域の営みの中で解決できてきたことを、意識的にやらないといけなくなったのがいまの社会。「地域起こし協力隊」の取り組みは、ほかの地域から人を引っぱり出して地域起こしをしていく実験になっている。そこでも、成果の良し悪しは、ほかの地域からやって来る人の質による。その人が、入り込んだ地域でコミュニケーションをどのくらいとれるのか。あとから育てるのはむずかしいという声もあり、自然と人の輪に入り、コミュニケーションを取れるような素質を持った人が入れるとよい。
須藤:鯖江では、京都のデザインの学生が古民家に数十人住み込んで、地元の伝統産業と組んでモノ作りをする取り組みがあった。そこで培ったセンスがある。オープンデータだけ切り取られて持ち上げられているが、その前提として地域に土台となる取り組みがある。だからすぐ形になる。そうした部分を抜きにして表層的にやるとうまくいかず、差が出てしまう。
(8)会場との質疑:行政のコストの問題
会場:オープンデータはまだ整備されていない状況で、オープンデータが出てくると役所の仕事が増えるという話もあった。地域の自治体には、避難所などの情報がデジタル化されていなかったり、情報がメンテナンスされていなかったりする。行政の仕事の一環として、情報のメンテナンスはしなければならない上、オープンデータになると追加コストがあるはず。行政としてどう思うのか。マンパワーが必要なら、それが民間の仕事になる可能性がるのではないか。
森さん:マンパワーについては議論が出てきている。実はコストはあまりかからないのではないだろうかと思う。データの整備は、紙からデータへは大変な作業になるが、基本的にはすでにシステマチックになっている部分が多い。行政が作るデータは、集めることではなく、伝えることが本来の目的。伝えるところにコストがかかっているはず。データとして出して、住民に伝え、アプリなどで伝えて行くことでコストダウンがはかれる。
林さん:データを公開していくと問い合わせが減る。行政の効率化につながる。公開にあってはルールの問題があるので、そこをクリアしていく必要がある。今後、役所から職員が減っていくと、市民の力を借りないといけない状況も出てくる。
(9)会場との質疑:農業とどう組むか
会場:農業側の業界との関係性はどうすればいいか
中川さん:頑張ろうとしている農家を応援したい。特定の市場にだけ出荷している農家さんをターゲットにすると、あまり伸びないと思っている。アグリノートのユーザーも、そうした状況から脱しようとしている農家さんが多い。農家は事業体として独立した存在。アグリノートを使っている人の周辺には、自分で販路を開拓して売って行くための足場づくりの意識をもった農家が多い。
(10)会場との質疑:技術者の手でオープンデータ活用の魅力を引き出すには
会場:やってる自治体とそうでない自治体の違いは、費用対効果から判断を見送るか、よさそうだからやってみるかの差。しかし、なんかよさそうだからと思って始めてみても、決定打が出てこない。本当は何かしらの魅力が見える化できるはず。鯖江もアプリの本数は多いが、本当に住民に必要とされているものが外からは見えてこない。そうした魅力を出す部分を技術者に期待をしたいがどうだろうか。
林さん:Code for AMERICAはかなり優秀なエンジニアが自治体に入りこんでいる。エンジニアには、自治体で課題を解決してサービスを開発することがステータスになり、こぞって手をあげている。そうした魅力を直に感じてやっていける取り組みがあるといい。
須藤:アグリゲートモデルが考えられるだろう。オープンデータを活用したサービスは、市民側も相当な責任を追う。行政も経営の仕方が変わる。行政が何を悩んでいるのかは、外からはわからない。役所の側も、技術者たちがニーズを持っているものやほしがっているデータが何なのかが見えていない。だから交流をすすめていく必要がある。行政とIT、地域の人々が、同時に動いていくことが必要だろう。役所や部署によってやれる、やれないは異なる。利用者がつかって便利で、ビジネス化されたものはまだ少ない。海外では事例があるが、国内ではそこまで行っていない。仲間を拡げて、いいものを使いあうのはひとつの方法かもしれない。
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翌14日(土)は同じく秋田市内で農業×ITのアイデアソンを開催します。セミナーで議論した異分野での連携でアウトプットを考える場となります。
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