2014年1月20日月曜日

【レポート】農業×ITマッチングワークショップ(雪国の温泉ハッカソン)初日編

1月17日(金)から19日(日)までの3日間で、青森県主催による「農業×ITマッチングワークショップ」を開催しました。
(参照)開催概要 [県庁WEBサイトより]
(参照)地域課題ITソリューション提案ワークショップ2 [ustream動画]

会場は、青森市の奥座敷、浅虫温泉。すっかり雪景色です。

現地の温泉宿「ホテル秋田屋」を会場に、泊まり込みのワークショップです。

ホテル秋田屋。青森だけど、秋田屋です。

この日はもう1団体の宿泊で満室。元気な女子高生の団体でした。

受付設置。ロビーでねぶたが出迎えてくれます。
(参照)ホテル秋田屋

青森県でのITと異分野のワークショップは、昨年9月の介護×ITに続き、二度目の開催。今回は農業に役立つITサービスの試作品を作ることを目的に、IT事業者と県内の農家さんなどにお集りいただきました。

参加者のみなさんは、インプットセミナー → アイデアワークショップ → 試作品開発ワークの順番で、3日間のプログラムをこなします。こちらの記事では、序盤のインプットセミナーとアイデアワークショップの様子をご紹介します。

1. インプットセミナー


インプットセミナーでは、今回のテーマに沿ってご参集いただいたゲストスピーカーの方々から、事例や考え方を学びます。


定員30名のところ、当日の来場者は地元メディアも含めて60名!東京、仙台のほか北九州市からも集まりました。この分野への熱い視線が伺えます。

開会にあたり、青森県新産業創造課の江刺家課長代理から、ご挨拶を賜りました。

江刺家課長代理のご挨拶の様子

ゲストスピーカーには、大阪からイノベーション創出に取り組む角さん、新潟から農業×ITでサービスを開発した中川さん、仙台からITも活用した新しい農業に挑む女川さんにお越しいただきました。

左奥から女川さん、中川さん、角さん

▼角勝さん(大阪市都市計画局 大阪イノベーションハブ担当)


「大阪イノベーションハブ」は2013年4月にオープン。梅田の「グランフロント大阪」内に、関西の知識労働の集約拠点として開設された施設のひとつです。最新のデジタルファブリケーション設備などもそろっているほか、ハッカソンも多数開催。
(参照)大阪イノベーションハブ


ITとものづくりとの連携による「ものアプリハッカソン」や、大手メーカーと共同で、Panasonicの技術者と一般参加者による「One Panasonic Hackathon」、SHARPと一般の開発者による「CoCreation Jam」などを開催。SHARPとのハッカソンでは、ツンデレなキャラクターを持ったロボットなど、SHARPの開発コンセプトにはなかった個性的なアウトプットも生まれました。
(参照)One Panasonic Hackathon [イベントは終了しています]
(参照)CoCreation Jam [イベントは終了しています]

角さんからは、ハッカソンの課題として、(1) 製品化につながるアウトプットを出す、(2) 継続して開発行う、(3) 事業化に向けたメンタリングを行うなど、大きな仕組みづくりが必要だとの指摘がありました。三点目については、2/18,19の2日間で「ハッカソンExpo」という成果物展示会を開催予定。今回のワークショップの成果物も出展が可能です。

角さん。外部の講演では公務員のイメージを突き破る服装で登壇します。

また、大阪イノベーションハブでは「Osaka Hackers Club」というプラットフォームがあり、プレーヤーのほかにオーガナイザーなども登録が可能です。
(参照)Osaka Hackers Club

角さんは今回、ハッカソンで着用するTシャツ姿でのご登壇。アメリカ横断ウルトラクイズに出てくるひらめきハットを被ったチェ・ゲバラのイラストが入ったもので、ゲバラの顔の下には「銭」の文字も。「ひらめき+革命+儲け」を実現させるハッカソンであれとのエールをいただきました。

▼中川幸哉さん(ウォーターセル株式会社)


中川さんは、新潟のITベンチャーとして農業支援システム「アグリノート」を開発し、サービスを拡大させています。
(参照)アグリノート


「アグリノート」では、航空写真を用いた地図で圃場の情報を確認できるシステムを導入。勘に頼っていた記憶による農業から、データに基いた記録による農業への転換をはかり、農業を次の世代に伝承できる仕組みにもなっています。

圃場管理に着目した背景には、農家数の減少や超高齢化があります。管理者のいなくなった農地を、残された農家が引き取ることで、大規模化が起こり、離散圃場。農家数が減っても生産数が大きく落ち込んでいないことからも、そうした大規模化が進んでいることが伺えます。

サービスをつくるにあたり、農家が投資できる額に見合ったものを作ることの重要さも指摘されていました。農家の負担額が年に数万円で収まるレベルがよいだろうとのことでした。また、顧客が何が欲しいのかは、顧客自身も最初から完全には把握していないのが通常であり、本当に必要なものは何かをさぐるために、やり直しを何度も行えるようなスケジュールの設計も必要とのこと。

そうしたやり直しを何周も繰り返すことでサービスの完成度はあがるものであり、今回のハッカソンはその“1周目”であるとのご指摘もいただきました。

ちなみにこの日、中川さんの著作(共著)の発売日だったそうです。ぜひお買い求めを。

日本Androidの会で活躍する全国の有志による著作

(参照)Effective Android(インプレスジャパン) [Amazonへリンクします]

▼女川源さん(有限会社アグリフューチャー 代表取締役)


女川さんは、通信事業者の関連会社などにお勤めの経験があり、その後、宮城で農業をはじめました。


農業の課題がさまざまある中、東日本大震災でのダメージについては、「元から悪くなる方向に進んでいたものを一気に引き寄せた」と理解するのがよいだろうとのこと。仙台のIT企業もダメージを受ける中、地元IT企業や東北大学などとの連携が生まれ「東北スマートアグリカルチャー研究会」が立ち上がり、農業にITを導入するさまざまな取り組みが続いています。
(参照)東北スマートアグリカルチャー研究会

女川さんはテンガロンハットがトレードマーク

農業にITを取り入れる際、IT事業者が気をつけるべき点は、ひとつの説明に対しても、農家が思っていることとIT事業者が受け止める内容に差が生じることだそうです。

たとえば、湿度センサーを導入させたいと意図するIT事業者が、農家に「湿度はだいじか?」と問い、農家から「だいじだ」と回答を得たとします。

このとき、IT事業者は、湿度センサー導入に手応えを感じるかもしれませんが、農家がイメージしていたのは、土壌の水分量が大切であるという意味。こうなると、必要なのは湿度センサーではなく、土の水滴を見て判断できるために、農地の写真を確認できるものとなります。

ハッカソンの成果物でよいものがあればぜひ導入したいとのお話もいただきました。

▼県内農家インタビュー


また、ご参集いただいた農家および農業関係者のみなさまにも、それぞれの状況やITへの要望などをお聞かせいただきました。

弘前から駆けつけてくださったりんご農家「おりかさ蜜ツ星農園」の成田晃さん。板前から農業に転じたのは、料理店を営むご両親を継ぐつもりだったのが、農家だったお祖父さんの跡を継ぐ人がおらず、その営みを絶やしたくないとの思いから。やはりここでも、世代の継承が話題になりました。リンゴ農家は、年間のスケジュールがほぼ固定で動いており、それにあわせて仕事をしていくというスタイルになるそうです。
(参照)おりかさ蜜ツ星農園

おりかさ蜜ツ星農園の成田さん。「林檎ソムリエ」の肩書きをお持ちです。

南部町からお越しの「沼畑総合ファーム」の沼畑俊吉さん。果樹、畑、養鶏を営んでいるそうで、南部では複数の品目を扱う農家が多いとのこと。どれかが落ち込んでも、他でカバーするというリスクヘッジにになっているそうですが、収益は畜産系に頼るケースも多いそうです。
(参照)沼畑総合ファーム

養鶏は、夜の気温などにも気を使うそうで、ちょっとした寒さで鶏がやられてしまうこともあるそうです。一晩中起きているわけにもいかず、何かありそうなときは自然と目が覚めて確認するような日々だそうです。

沼畑さんは、CCLのスタッフが事業検証で活動をご一緒したことがあるNPO法人青森なんぶの達者村の活動も行っています。
(参照)NPO法人青森なんぶの達者村(Facebookページ)

そのほか、青森県庁から農林水産政策課、情報システム課などからも担当職員の方がお見えになり、各課の事業でも農業分野でのIT利活用を今後、ご検討いただるとのことです。

2. アイデアワークショップ


初日の後半は、アイデアワークショップを開催しました。農業関係者とIT事業者が一緒にワークを行い、農業に役立つITサービスを考えて、ハッカソンで開発するものの企画のタネを作ります。

全体の概要は、当日の進行スライドを公開しておりますので、あわせてご確認ください。

このアイデアワークは、アイデア創出の専門家、アイデアプラントの石井力重さんのメソッドを参考に、CCLでアレンジを加えたものです。昨年12月に秋田県で開催した農業×ITのアイデアソンの内容をベースにしております。
(参照)石井力重氏ブログ
(参照)【レポート】オープンデータアイデアソン秋田

アイデアワークは、参加者全員で、共有財産となるアイデアをたくさん出す場としています。なので、この段階では、ハッカソンのチームをバラバラにして、別なチームのメンバーと同じテーブルに座ってもらいました。

最初はアイスブレイク。他己紹介によるグループワークとマンダラートを使った個人ワークを行いました。

他己紹介の様子。1分で相手を紹介します。

他己紹介では、ペアを組んだ相手から受けた自己紹介の内容を、ほかのメンバーに語ります。聞いた自己紹介を忘れてしまったら、想像で補います。

マンダラートでは「農業」という言葉で連想できるものをたくさん書き出します。農業や農業に関連するものを具体的にイメージするためのウォーミングアップです。

ブレストのルールを解説

次からが本番。「農作物を効果的に育てる・収穫する」「農作物を売って高い利益をあげる」の2点のいずれかに役立つITという切り口を提示しています。

それらを考えるために今回用いたメソッドは「破壊ブレスト」と呼ばれるもの。参加者は、農業を破綻させるために送り込まれた工作員になりきり、農業を失敗させるためのアイデアを出し合います。

破壊ブレストのお題。工作員への指令が飛びます。

参加者の大半がIT事業者であったため、逆の視点で失敗するための方策を素人目線で考えることで、発想を起こしやすくするというのが、このブレストの主旨です。

破壊ブレストで考えた案をチーム内でシェア

ここで考えた農業を失敗させる方法を逆転させることで、農業を元気にするアイデアが生まれます。

出したアイデアの最初のブラッシュアップとして「スピードストーミング」を行いました。1対1のペアを組むことで、互いのアイデアを交換し、ヒントをもらうことができます。アイデアワークで参加者が一番盛り上がるシーンがここです。

5分交代で相手を変えてペアでブレストを行います

講師のみなさんにもご参加いただきました。

次いで、アイデアスケッチを作成します。A4で1枚のフォーマットに、アイデアの概要を書き出します。今回は、約50名で行ったワークで、103本のアイデアスケッチが生まれました。
見出しのほか、概要や機能の簡単な説明、イラストなどを書き込みます

書いたスケッチは全員で閲覧します。ハイライト法と呼ばれる手法で、気に入ったアイデアには☆印をつきます。パッと見て、印象に残るものがどれなのか、その場での良案をスピーディーに抽出することができます。ただし、☆が少ないシートにも、その場でのわかりやすさがなくても、革新的な発想が潜んでいる可能性があります。

各テーブルに並べたスケッチを全員で閲覧

今回は103案のうち、9案が全体の4割の支持(=☆20個)を集めました。いくつかの案は、その場でプレゼンをしていただきました。

103枚の束!一番上のスケッチが今回最も会場内で支持を集めたアイデア

翌日は、これらの案から実際に開発をするものを選び、さらなるブラッシュアップを行います。

3.交流会


夜は交流会を開催。温泉宿らしく、お座敷にお膳。各地から集まったみなさんと親交を深める場となりました。

参加者も、青森県内にとどまらず、仙台、東京、さらには北九州から、多数お集りをいただきました。こうした場で地域同士のつながりも広がるのも、楽しみのひとつ。ここから次の場が生まれます。分野を越え、地域を越え、世代を越える。企画の中に3つの越えるをいかに盛り込むかが、次につながる種火をつくるポイントでもあります。


ということで、ご縁をいただいたみなさんと記念撮影!青森県庁の岡村さんは、お仕事を終えて、大阪の角さんに合いに交流会に駆けつけてくれました。北九州からは九州ヒューマンメディア創造センターの方々に、ご視察を兼ねてご参加いただきました。みなさん、ありがとうございます!

(参照)【レポート】農業×ITマッチングワークショップ(雪国の温泉ハッカソン)2日目編
(参照)【レポート】農業×ITマッチングワークショップ(雪国の温泉ハッカソン)3日目編

【お知らせ】アイデアソン・ハッカソンの企画運営を承ります!
CCLでは、アイデアソン、ハッカソンの企画・運営等の業務をサポートしておりますので、開催にあたりお困りの際は、お気軽にご相談ください。
(ご連絡先)info ( at ) cc-lab.co.jp アイデアソン・ハッカソン担当 まで

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